水の中で泳ぐと、なぜ思うようにスピードが出ないのでしょうか。
陸上とは違い、水の中では常に「抵抗」が働いています。
この抵抗が大きくなるほど、同じ力で泳いでも前に進みにくくなります。
OWSのような長距離では、この抵抗の影響が特に大きくなります。
無駄な抵抗を受け続けると、体力の消耗は大きくなり、泳ぎの効率も低下します。
水中で働く抵抗には、
・造波抵抗
・摩擦抵抗
・圧力抵抗
の3種類があります。
この記事では、それぞれの抵抗がどのように生まれるのかを整理しながら、抵抗を減らすための姿勢や泳ぎ方の考え方について解説します。
抵抗の仕組みを理解することで、
・なぜストリームラインが重要なのか
・姿勢やフォームが抵抗にどう影響するのか
・波や潮流に対して、どのように泳ぎを調整すればよいのか
といった、水の中で効率よく泳ぐためのポイントが見えてきます。
造波抵抗と波の方向|向かい波・横波・追い波で変わるOWSの泳ぎ方
水の中を泳ぐと、泳者の前方にある水が押し上げられて波が生じます。この押し上げられた水は、重力によって元の位置に戻ろうとするため、泳者を後ろへ押し戻す力が働きます。
これが造波抵抗(Wave drag)です。
プールでもこの造波抵抗は発生していますが、水面が比較的安定しているため、その影響は限定的です。
一方、OWSでは自分が作る波だけでなく、
・風による波
・うねり(遠方の台風の影響等)
・潮流(海水の水平移動)
など、自然環境による波の影響も受けます。
そのためOWSでは、波の方向によって泳ぎ方を調整することが重要になります。
海洋分野では、波の方向は次の3つに分類されます。
- 向かい波(Head sea)
- 横波(Beam sea)
- 追い波(Following sea)
これらの波の特徴を理解しておくと、レース中に無駄な体力消耗を減らすことができます。
向かい波(正面から来る波|Head Sea)の泳ぎ方

スタート直後など、海岸付近では水深が浅くなることで波が持ち上がり、沖よりも波が高くなることがあります。これは、波が浅い海底の影響を受けて持ち上がるためです。
ローカルルールの大会やリレー種目では、浜からスタートする形式もあり、スタート直後は浅瀬を進みながら沖へ向かうことになります。このような浅瀬では、水深に応じて走る・潜る・泳ぐといった移動方法を切り替えることが重要になります。
沖に向かう途中で大きな波を受けた場合、水面近くを泳いでいると波の力を強く受けてしまい、前へ進みにくくなることがあります。
そのような時は、一時的に水面下へ潜ることで波の影響を小さくすることができます。
波のエネルギーは水面付近で最も大きく、水中に入るほど弱くなるためです。
浜付近(スタート時)の対処
浜からスタートする場合、浅瀬では水深に応じて移動方法を切り替えながら沖へ向かいます。
一般的には、ウェーディング(走る)→ ドルフィニング(潜る)→ スイム(泳ぐ)の順に移行していきます。
スタート直後の浅い水深では、泳ぐよりも走った方が速く前進できます。
そのため、膝上〜太もも程度の水深まではウェーディングと呼ばれる動きで前進します。
ウェーディングでは、足を高く上げながら腕を大きく振り、ハードルを越えるようなイメージで進むことで水の抵抗を受けにくくなります。
水深が深くなり走ることが難しくなったら、ドルフィニングへ移行します。

足を高く上げることで水の抵抗を減らす
水深が深くなったら無理に走らず、ドルフィニングへ切り替える
周囲の選手との接触に注意する
また、海底の形状や潮汐(潮の満ち引き)によって、水深は常に変化します。試泳やウォーミングアップの時間とスタート時間が異なる場合、潮の影響で水深が変化していることもあります。
そのため、周囲の状況や水深を確認しながら、走る・潜る・泳ぐといった移動方法を適切に切り替えることが重要です。
水深が深くなっても無理にウェーディングを続けるとスピードが落ちることもあるため、状況に応じてドルフィニングやスイムへスムーズに移行していきましょう。
水深が腰程度になると、ジャンプして体を水中に入れながら前進する「ドルフィニング」という動きが使われることがあります。
この動きは、手を前に伸ばしてバタフライのように水中へ飛び込み、水底に足がついたら海底を蹴って再び前へ飛び込む、という動作を繰り返して前進する方法です。
波の影響を受けにくく、沖へ素早く進むことができます。
ただしOWSでは、競技規則上 海底を利用して前進する行為は原則認められていません。ローカルルールの大会では陸スタートが採用されることもあり、浅瀬ではドルフィンニングの技術が有効です。

ただし、ドルフィニングを行う際には水深への注意が必要です。
膝より浅い水深では、手や頭部を海底にぶつける危険あり
太もも〜腰程度の水深になってから行うのが安全
ドルフィンダイブで入水したら手先を水面方向へ向け、深く潜りすぎないようにする
水深が浅い場所では膝を高く上げて水中を走る「ウェーディング」、水深が深くなってきたら頭から水中へ飛び込む「ドルフィニング」というテクニックを使って沖へ進みます。
これらの動きを使うことで、泳ぐよりも速く沖へ向かうことができ、波の影響を受けにくくなります。
ただし、浅い場所や波が崩れる直下で飛び込むと水底に頭をぶつける危険があるため、水深を確認しながら安全に行うことが重要です。
沖(レース中)の対処
沖に出てから向かい波を受ける場合、スタート直後のように潜ってやり過ごす場面は少なくなります。
このような状況では、ストロークのピッチを上げて推進力を高めることが重要になります。
向かい波では波によって減速しやすくなるため、ゆったりしたストロークでは前に進みにくくなることがあります。
ストロークテンポを少し上げて泳ぐことで、波による減速の影響を小さくすることができます。
OWSでは、前の選手の後ろにつくことで水の抵抗を減らすドラフティングという技術があります。
前の選手が作る引き波を利用することで、体力の消耗を抑えながら泳ぐことができます。
ただし、ドラフティングを行う際にはいくつか注意点があります。
前の選手の真後ろではなく、腰から後方の位置につく
真後ろにつくとキックで蹴られ、手や指を負傷する可能性がある
前方の選手が進行方向を誤る場合もあるため、目標物を確認できる位置を確保する
前の選手に触れないようにし、不要なトラブルを避ける
特に向かい波の状況では抵抗が大きくなるため、ドラフティングを活用することで他の選手よりも楽に進むことができます。レース中の位置取りとして覚えておきたい技術です。
横波(Beam Sea)の泳ぎ方
横波や潮流がある状況では、泳いでいる方向とは別に「流される方向」が生まれます。
そのため、ブイに向かって真っすぐ泳いでいるつもりでも、潮流や波の影響でコースから外れてしまうことがあります。
実際のOWSでは、潮流の強さや自分が流されている状況を確認しながら、泳ぐ方向や推進力を微調整して進むことが大切です。横波の状況では、流される方向を意識して泳ぐ方向を調整します。
実践例A(真横から流される場合)

潮流や波によって右側へ流される状況を考えます。
このとき、ブイに向かって真っすぐ泳ぐ(点線)と、流れの影響でコースの右側(A方向)へ流されてしまいます。そのため、あらかじめ ブイの左側(B方向)を目標にして泳ぐことで、流れによって右側へ流されながらブイに近づくことができます。
実践例B(斜め前方から流される場合)

潮流や波が斜め前から来る場合、流れは横方向だけでなく、進行方向を押し戻す力としても働きます。この場合、ブイに向かって真っすぐ泳ぐと、流れの影響で右側へ流されるだけでなく、前に進みにくくなります。
そのため、流される方向を考えてブイの左側を狙うとともに、流れに負けない推進力を保つことが重要になります。
今回示した図と解説は、理解しやすいように一方向の潮流・波を前提に単純化して示したものです。
実際の自然環境下では、潮流・波・風などが複雑に重なり、様々な方向から影響を受けます。
そのため、常に目標となるブイと自分の位置関係を確認しながら、
・どの方向から流れの影響を受けているのか
・どの程度流されているのか
を把握し、状況に応じて泳ぐ方向やストロークを調整していくことが重要です。
海では「真っ直ぐ泳ぐ」ではなく、「正しく修正し続ける」ことが大切です。
横波での呼吸

横波がある状況では、波や水しぶきの影響で呼吸がしづらくなることがあります。
そのため、波や潮流の向きを確認し、可能であれば流れと反対側で呼吸を行うことで、水しぶきの影響を受けにくくなります。
一般参加の選手では水を飲んでしまうリスクを減らす効果がありますが、競技レベルの選手でも呼吸が浅くなることで十分に空気を吸えず、パフォーマンスの低下につながることがあります。
多くの選手には得意な呼吸側がありますが、海では波の状況によって呼吸しやすい側が変わることがあります。そのため、苦手な呼吸側でも呼吸ができるよう、普段の練習から両側呼吸を身につけておくことが重要です。
追い波(後方から来る波|Following Sea)の泳ぎ方

追い波は、後方から波やうねりが押してくる状況です。波のタイミングに合わないと身体が上下に揺れ、推進効率が低下しやすくなります。
追い波では、波の動きを利用することが重要です。
波の下り斜面で身体が前に押し出されるタイミングにストロークを合わせることで、効率よく前進できます。
ゆったりと大きなストロークで進むことがポイントです。
無理に回転数を上げるのではなく、波に押されるタイミングで水をしっかり捉えます。焦ってストローク数を増やすと、波のリズムと合わず空振りしやすくなります。
波に振られると身体がブレて抵抗が増加しますが、乗れているときは抵抗が少なく、効率よく進めます。
OWSにおける摩擦抵抗|水着で変わる水の抵抗
水と身体表面との摩擦の抵抗になりますが、分かりやすいのは水着です。一般的にシャカシャカ水着と呼ばれている表面低抵抗の素材が使われている水着は、摩擦抵抗が削減されます。
日本水泳連盟のオープンウォータースイミング競技規則の水着に関する規則では
【水着(男女とも)は、首を覆わず、肩を越えず、足首より下に伸びていてはならない。】
とありますので、体の多くの面積を水着で覆うことができ、摩擦抵抗の低減効果が大きいと言えます。
OWSは長時間にわたる競技であるため、このような摩擦抵抗の違いは積み重なり、最終的に無視できない差となって現れます。

- 摩擦抵抗を低減させる
- 紫外線から肌を守る
- 海洋生物や水中の異物から身体を保護する
- 関節の可動域の制限
- 呼吸のしづらさ(胸郭の圧迫)
長時間のOWSレースでは、わずかな違和感でも大きなストレスとなるため、色々な水着を試して自分に合う水着を見極める必要があります。
OWSにおける圧力抵抗|姿勢とフォームで変わる水の抵抗
水中を進むとき、泳者の前方では水が押しのけられて圧力が高くなり、後方では水の流れが乱れて圧力が低くなります。
この前後の圧力差によって生じる抵抗が「圧力抵抗」です。
特に、秒速1.5mを超える速度(100mを1分6秒より速いペース)になると、この圧力抵抗の影響が大きくなるとされています。スピードが上がるほど水の流れは乱れやすくなり、抵抗は急激に増加します。
そのため、OWSのように一定のスピードを維持して長時間泳ぐ競技では、圧力抵抗をいかに抑えるかが重要になります。
圧力抵抗を決める4つの要素
圧力抵抗は、次の4つで整理できます。
👉 姿勢 × 投影面積 × 流れの乱れ × スピード
- 姿勢:頭が上がる、足が沈むと抵抗増加
- 投影面積:進行方向に対する断面積が大きいほど抵抗増加
- 流れの乱れ:水の流れが剥がれると抵抗増加
- スピード:速くなるほど急激に増加
つまり、いかに水を乱さず、細く長く進むかが重要です。
この考え方をイメージしやすいのがイルカです。
イルカは細長く滑らかな流線型の身体をしており、水の流れを乱さず進むことができます。
そのため、圧力抵抗が非常に小さく、高速で効率よく泳ぐことができます。
一方で、人間は凹凸の多い形をしており、水の流れを乱しやすい構造です。だからこそ、姿勢を整え、できるだけイルカのように“流れに沿う形”を作ることが重要になります。

圧力抵抗を減らすためには、
- 頭を上げすぎない
- 足を沈ませない
- 身体のラインを崩さない
つまり、ストリームラインに近い姿勢を保つことが基本になります。
実践:前方確認(サイト)の注意点
OWSでは前方確認が必要ですが、ここで圧力抵抗が一気に増えます。
前方確認と同時に呼吸を行うと、口まで水面上に出す必要があり、その分、頭が上がって足が沈みやすくなります。その結果、姿勢が崩れ、抵抗が増えてしまいます。
おすすめは、
- 前方確認は「目の高さまで」軽く上げる
- 呼吸は通常通り横呼吸で行う
このように分けることで、姿勢の崩れを最小限に抑えることができます。
実体験:水着による変化
実際に競技用水着を着用した際にも、圧力抵抗の違いを感じます。
OWS用ロング水着を着用すると、大腿部の裏側が水面方向へ持ち上げられるような感覚があります。
その結果、足が沈みにくくなり、自然と姿勢が整いやすくなります。姿勢が整うことで、身体前面に受ける水の抵抗や、水の流れの乱れが減少していると感じています。
また、この水着をプールで着用して泳ぐと、水の中を滑るように進む感覚があります。これはフィット感だけでなく、水着表面の素材や構造によって水の流れが整えられている影響も大きいと考えられます。
まとめ
水中での泳ぎは、常に3つの抵抗の影響を受けています。
- 造波抵抗(波や水面の影響)
- 摩擦抵抗(身体表面と水の摩擦)
- 圧力抵抗(姿勢や水流の乱れ)
OWSではこれらの抵抗が複雑に重なり、泳ぎの効率に大きく影響します。
特に重要なのは、
👉 水を乱さず、効率よく進むこと
そのためには、
- 波の状況に応じて泳ぎ方を調整する
- 姿勢を整え、投影面積を小さくする
- 水の流れを意識したフォームを保つ
といった意識が必要です。
そして何より大切なのは、実際の水の中で試してみることです。
プールでは感じにくい波や流れの影響も、海でははっきりと現れます。
次に海で泳ぐときは、
• 波の向きを意識する
• 自分がどのように流されているかを感じる
• 姿勢やストロークを少し変えてみる
こうした小さな意識を持って泳いでみてください。
「ただ泳ぐ」から「水を理解して泳ぐ」へ。
その一歩が、OWSでの泳ぎを大きく変えていきます。
