2026年5月31日、南紀田辺OWS。
オフシーズンに取り組んできたLT1中心のトレーニング。その成果を初めて海で確認するレースとなった。
プールでは、一定のペースで長い距離を泳ぐ能力が向上している感覚はあった。
しかし、それが本当にOWSで通用するかは分からない。
海況、集団、コース取り、駆け引き。
OWSにはプールにはない要素が数多く存在する。
南紀田辺OWSは、順位やタイムを追うレースではない。
オフシーズンに積み上げてきた巡航力が、実際のレースでどこまで発揮できるのか。
その答えを探すための確認レースだった。
LT1で高めた巡航力は通用するのか
オフシーズンに取り組んできたトレーニングの中心はLT1だった。
OWSでは長時間にわたり巡航し続ける能力が重要になる。
大学コーチからも「まずはエアロビック能力を高めることが大切」と助言を受け、自分なりに巡航力の向上に取り組んできた。
しかし、不安がなかったわけではない。
共に日本選手権出場を目指す40代男性のTさんは、現役競泳選手時代から高い競技実績を持ち、現在も高いレベルで競泳とOWSを両立している。
トレーニングもLT2やVO2max領域を積極的に取り入れ、私とは全く違うアプローチだ。
本当にLT1だけで良いのだろうか。
もっと速い強度で追い込むべきではないのか。
そう考えることは何度もあった。
だが、現在の競技レベル、年齢、回復力を考えると、そのトレーニングを再現することは難しい。
大切なのは他人のトレーニングを真似することではなく、自分に合った方法で能力を積み上げることだ。
だから私は、まず巡航力という土台を作ることを選んだ。
南紀田辺OWSで確認したかったのは、その判断が間違っていなかったかどうかだった。
巡航力を確認するためのレースプラン
今回の目的は順位やタイムではない。
オフシーズンに積み上げてきた巡航力が、レース終盤まで維持できるかを確認することだった。
そのため、スタートから前へ飛び出すつもりはなかった。
約100名が同時にスタートする南紀田辺OWS。
レースである以上、少しでも前へ出たい。
混雑から抜け出したい。
そんな気持ちにはなる。
しかし、周囲の選手たちは日本選手権出場を目指すレベルの高い選手たちだ。
無理に前へ出ようとすれば、私にとってはオーバーペースになる。
それでは今回確認したい巡航力の評価ができなくなる。
まずは自分の巡航ペースに合う選手を探す。
そして、そのペースを維持しながらレース終盤まで泳ぎ続ける。
それが今回のレースプランだった。
スタート直後は予想以上の混雑だった。
周囲との接触も多く、自分のペースを保つことは簡単ではない。
それでも焦らず、自分のリズムを優先することを心掛けた。
OWS経験が生む小さくない差
レース序盤、私の巡航ペースに近い選手を見つけることができた。
レースとして考えれば少し遅く感じるペースだったが、今回確認したかったのはレース終盤まで巡航力を維持できるかどうかだ。
そのため、この選手と泳ぎ続けることを選んだ。
泳力そのものは私と近いレベルだったと思う。
しかし、一緒に泳いでいるうちにOWS経験の差を感じる場面があった。
この選手は頻繁に前方確認を行っていた。
ブイが小さく視認しづらいことも理由だろう。
しかし前方確認は減速と姿勢変化を伴う。
回数が増えれば、その分だけ体力を使う。
私はこの選手の進路を参考にしながら、自分の前方確認回数を最小限に抑えた。
さらに気になったのはコース取りだった。
潮の影響もあり、この選手は進行方向から大きく外れていくことがあった。
最初は私自身がインコースを攻め過ぎているのかと思った。
そのため、通過したブイを背泳ぎで確認しながら、自分の進路を何度も確認した。
結果として私は大きくコースを外してはいなかった。
この選手は流されたことに気付くとペースを上げて修正しているようだ。
若い選手であれば、それほど気にならないかもしれない。
50歳の私にとって、余分な距離や余分な加速は終盤の巡航力に確実に影響する。
OWSでは泳力が大前提である。
同じ泳力を持っていても、経験によってエネルギー消費は変わる。
その差は決して小さくない。
巡航力は武器ではなく土台だった
レース終盤、残り2周となったところで先頭集団にLAPされた。
日本OWS界のトップ選手たちだ。
後方から近づいてくる気配を感じた次の瞬間、一気に横を通り過ぎていく。
力強いキックで身体を前へ押し出し、その推進力を強いプルがさらに前へ運ぶ。
キック、体幹、プルの連動が非常に大きい。
泳ぎのタイミングを見ても、その全てが前へ進むために噛み合っている。
無駄がなく、推進力が途切れない。
正直に言えば羨ましかった。
あの推進力が欲しいと思う。
しかし、50歳の私が同じようなキックを頻繁に打てば、心拍数は上限を超え、レース終盤まで持たない。
それはトレーニングで十分に分かっている。
無い物ねだりをしても仕方がない。
今年のオフシーズンで私が積み上げてきたのは別の能力だった。
LT1の巡航力。
ドライトレーニングによる身体の連動性。
そして、長時間水を捉え続けるための筋力だ。
今回確認したかったのは、その能力がレース終盤まで維持できるかだった。
ラスト2周になると若干ペースを上げた。
昨年までの私は、レース終盤になると腕の力がなくなり、水を捉えられなくなっていた。
しかし今回は違った。
疲労は感じる。
それでも水はしっかり捉えられている。
ラスト2周でも力強く水を押し続けることができた。
最終ブイを回ったあともペースを上げることができた。
私がオフシーズンで取り組んできた巡航力強化は決して間違いではなかった。
しかし、巡航力だけで彼らと戦えるとも思っていない。
OWS日本選手権トライアルに出場してくる選手たちは、競泳でも高い実力を持つデュアルスイマーだ。
圧倒的な練習量から生まれる巡航力もまた強い。
今回確認できたのは、巡航力は武器というより、OWS選手としての土台であるということだった。
その土台の上に、LT2、VO2max、加速力、レース終盤の勝負強さを積み上げていく必要がある。
南紀田辺OWSで得た答え
結果は1時間14分49秒。
決して速いタイムではない。
ラップタイムを見ても、レース終盤に大きくペースを上げることはできなかった。
それでも大きく失速することなく泳ぎ続けることはできた。
今回確認したかったのは順位やタイムではない。
オフシーズンに積み上げてきた巡航力が、レース終盤まで維持できるかだった。
その点では一定の手応えを感じることができた。
一方で、巡航力だけでは戦えないことも改めて確認できた。
LT2。
VO2max。
スタート直後の対応。
レース終盤の加速。
日本選手権トライアルというステージで戦うためには、まだ身につけなければならない能力がある。
南紀田辺OWSは、オフシーズンの方向性が間違っていなかったことを確認できたレースだった。
そして同時に、次に積み上げるべき課題を教えてくれたレースでもあった。

