わずかな浮力の違いは巡航力に影響するのか ~屈斜路湖OWS2026~

海水と比べると、淡水は浮力がわずかに低いことが知られています。

しかし、その違いはオープンウォータースイミング(OWS)のレースで体感できるほど競技力に影響するのでしょうか。

2026年8月に開催された屈斜路湖オープンウォータースイミング大会は、日本でも数少ない淡水で行われる大会です。

私自身、このレースで海とは異なる泳ぎの感覚を経験しました。

一方で、トップ選手の泳ぎを見ると、単純に「淡水だから泳ぎにくい」と片付けられるものではないとも感じました。

この記事では、レースで得られた事実をもとに、屈斜路湖というフィールドだからこそ見えてきたことを整理します。

大会に参加する方はもちろん、競技力向上を目指すOWSスイマーにとっても、新たな視点を得られる内容になれば幸いです。

屈斜路湖OWS大会情報

屈斜路湖OWSへの行き方

屈斜路湖は北海道東部に位置しますが、夏季には中部国際空港から女満別空港への直行便が運航されており、女満別空港から会場まではレンタカーで約1時間30分程度です。

北海道の大会というと遠く感じますが、意外にもアクセスしやすい大会です。

費用もOWSサーキットシリーズの日程が発表される3月に航空券を予約すれば、片道13,000円以内で予約することが出来、新幹線で遠征する大会と変わりません。

アクセスや宿泊については、今後「OWS遠征ガイド」で詳しく紹介していきます。

大会当日のコンディション

2026年大会は晴天に恵まれ、水温は25℃と、この大会としては比較的高い水温で行われました。

スタート時はほぼ無風でしたが、レース中盤から沖側から岸へ向かう風が吹き始め、静かだった湖面は次第に波立ち、後半は水面の影響を受けるコンディションとなりました。

一方、屈斜路湖大会は例年、水温が20℃前後と低く、天候によってコンディションが大きく変わる大会として知られています。

2025年参加経験者からは、「公式発表の水温以上に冷たく感じる」「雨天時はかなり寒さを感じる」といった声も聞かれました。

2026年大会は水温や天候には恵まれましたが、淡水ならではの特徴は海のレースとは異なり、本記事でもその点について考察していきます。

コースレイアウトと特徴

※コース図を後日アップします🙇

5km種目は、LAPゲートから約100m後方をスタートし、日本選手権トライアルと一般5kmの男女約50名が一斉に泳ぎ出します。

スタートからLAPゲートまではコースロープによって進路が狭められているため、全選手が一つの通路へ集まります。

その光景は、まるで北海道の川を遡上する鮭の群れ。

狭いコースロープの間へ一斉に選手が押し寄せ、肩や腕がぶつかるのは当たり前です。

スタート直後の約100mは、まさに戦場。

自分の泳ぐスペースを確保するだけでも一苦労で、この大会最大の勝負どころと言えるでしょう。

LAPゲートを通過するとコース幅に余裕が生まれ、第1ブイを回る頃には集団が徐々に落ち着き、各選手が本来の巡航ペースへ入っていきます。

5kmコースは約700mを7周回するレイアウトで、スタートからLAPゲート、第1ブイまではコースロープに沿って泳ぎます。

その後も沖側はコースロープとほぼ平行に進むコース設計となっているため、一般的なOWSコースと比べて前方確認の回数は少なくて済みます。

特に右呼吸の選手は、呼吸のたびに岸側のコースロープを視界に入れながら泳ぐことができます。

比較分析で見えた次の目標

競技力を向上させるためには、順位やタイムだけを見るのではなく、今の自分がどのレベルの選手とどこまで一緒に泳げるのかを知ることが重要です。

その差が生まれる場所やタイミングを知ることで、次に強化すべき課題が見えてきます。

そこで今回のレースでは、日本選手権トライアル選手についていけるところまでついていき、自分の限界を確認することを目標にしました。

集団から離れた後は、女子トライアルの選手についていくことを目標に切り替え、LT2領域に近い速い巡航ペースを最後まで維持できるかを確認するレースプランとしました。

しかし、結果は想定よりも厳しいものでした。

上位集団から離れたのは第2ブイ手前(約200〜300m)。

その後、目標としていた女子トライアルの選手との差も1周回を迎える前には広がり始めます。

ラップタイムを見ると、その変化はさらに明確です。

2周目には10分13秒と最も速いラップを記録したものの、その後は周回を重ねるごとにタイムが低下。

レース後半は風が吹き始めて湖面が波立ち、思うように巡航ペースを維持できませんでした。

前半の負荷も重なり、後半は腕の力に頼る泳ぎとなってしまいます。

水を捉えられなくなると腕の回転だけで前へ進もうとし、さらに腕が疲労するという悪循環に陥りました。

今回のレースで最も大きな課題として見えたのは、LT2領域の速い巡航ペースを維持する能力です。

短時間であれば高いレースペースについていくことはできても、そのペースを維持し続けることはできませんでした。

では、なぜここまで巡航力が低下したのでしょうか。

単純にトレーニング不足だけでは説明できない部分もありました。

レースを振り返る中で、淡水というフィールドならではの特徴が影響していた可能性も感じています。

次の章では、その点について考えてみます。

海と湖では何が違うのか

~浮力と水の動きが泳ぎに与える影響~

海と湖の違いとして、最も知られているのが浮力です。

海水は塩分を含むため、淡水よりも浮力が大きくなります。

そのため、海の方がボディポジションを維持しやすく、楽に泳げると言われています。

今回、私は屈斜路湖(淡水)と、その後に海で行われたOWSを経験し、この浮力の違いだけでなく、水そのものの動きにも大きな違いがあることを感じました。

屈斜路湖は無風であれば、まるでプールのように静かです。

水面も水中もほとんど動かず、自分が生み出した推進力だけで前へ進み続けなければなりません。

一方で風が吹くと水面は波立ちますが、水中は比較的穏やかで、水面だけが荒れるような印象でした。

一方、海では潮流やうねり、波によって水中にも常に動きがあります。

向かい波では進みにくさを感じる一方で、うねりに身体を預けられる瞬間には、ストロークの負担がわずかに軽くなるようにも感じました。

淡水では自分の推進力がより重要になる

屈斜路湖では、後半になるにつれて腕への負担が大きくなり、思うようにストロークを維持できなくなりました。

その要因として、浮力が小さいことだけでなく、水そのものの動きが少ないことも影響していたのではないかと考えています。

海では波やうねりによって身体が持ち上げられる瞬間がありますが、湖ではそのような助けはほとんどありません。

そのため、淡水湖では自分自身で推進力を生み出し、ボディポジションを維持し続ける能力がより求められるのではないでしょうか。

また、キックは推進力だけでなく、姿勢の維持やローリングの安定にも大きく関わっています。淡水では、こうしたキックの役割も海以上に重要になる可能性があります。

ウェットスーツは一般選手ほど効果が大きいのか

ここからは、今回のレースを通して感じた私の仮説です。

一般選手では、ウェットスーツによってボディポジションが高く保たれることで、姿勢を維持するための労力が減り、その分を推進力へ回せる可能性があります。

私自身、ウェットスーツで泳ぐ感覚は、プルブイを付けて泳いでいるときに近い印象があります。

脚が浮くことで自然と前に体重が乗りやすくなり、身体を支えるための負担が減ります。

同じストロークでも水の中を滑るように進み、ひとかきごとの負担も軽く感じられます。

OWSのような長距離では、この小さな負担の積み重ねが、後半の巡航力に大きく影響するのではないかと考えています。

一方で、日本選手権レベルのような推進力の高い選手は、自らの泳ぎだけで十分なボディポジションを維持できます。

そのため、ウェットスーツによって下半身が必要以上に浮くことで、普段のキックの役割や身体全体のバランスが変わり、かえって泳ぎにくくなる可能性もあります。

実際に、トップレベルの選手の中には「ウェットスーツを着ない方が速い」という意見もあります。

つまり、ウェットスーツの効果は一律ではなく、

  • 一般選手では巡航力の維持に有利に働く可能性がある。
  • トップレベルの選手では、必ずしも有利とは限らない。

という可能性があります。

もちろん、これは現時点では私自身の仮説に過ぎません。

しかし、屈斜路湖では淡水で腕への負担が大きくなり、海では異なる感覚を得られたこと、さらにウェットスーツを着用した選手のレース内容などを考えると、この仮説を検証する価値は十分にあると考えています。

次戦では、ウェットスーツやラバー水着を着用し、公認水着との違いを比較しながら、この仮説を検証していきたいと思います。

まとめ

屈斜路湖OWSは、北海道の雄大な自然の中で開催される魅力的な大会です。

今回は天候にも恵まれ、水温25℃と比較的泳ぎやすいコンディションの中で、北海道ならではの景色や空気を満喫しながらレースを楽しむことができました。

一方で、競技として見ると、この大会は淡水湖ならではの特徴を持つ泳力勝負のレースでもあります。

海水より浮力が小さく、水そのものの動きも少ないため、自分自身で推進力を生み出し続ける能力が求められます。

さらに、スタート直後はコースロープによって進路が狭まり、限られたスペースへ多くの選手が集まるため、序盤から高い巡航力と位置取りが要求されます。

そのため、競泳の泳力が高い選手ほど環境の影響を受けにくく、本来の実力を発揮しやすいフィールドだと感じました。

また、北海道開催ということもあり、本州の大会と比べるとトライアル部門の参加者は比較的少ない傾向があります。

今後はOWSジュニアオリンピックを目指すジュニア選手の参加も増えていくと思われますが、現時点では自分の実力を試すには貴重な大会の一つと言えるでしょう。

一方、一般参加者にとっては、北海道旅行とOWSを同時に楽しめる魅力的な大会です。

淡水では海水より浮力が小さいため、初めて参加する方や完泳を目標とする方は、ウェットスーツを着用することで姿勢を維持しやすくなり、水温や浮力の影響を受けにくく、より安心してレースを楽しめると感じました。

今回のレースでは、日本選手権レベルとの差を数字で確認し、自分に足りないものを明確にすることができました。

結果だけを見れば悔しいレースでしたが、それ以上に今後取り組むべき課題と目標を得られたことが、この大会最大の収穫です。

来年もこの屈斜路湖で、自分自身の成長を確かめたいと思います。

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