OWSサーキットを転戦していると、調子が悪いレースは必ずある。
疲労が抜けないままスタートラインに立つこともあれば、思うように泳げず、「何のために大会へ来たのだろう」と感じることもある。
私も館山OWSでは、まさにそのようなレースになった。
しかし、振り返ってみると、調子が悪いレースだからこそ得られる学びがあったように感じる。
今回は、館山OWSを通して感じた「結果だけでは測れないレースの価値」についてまとめる。
調整なしで臨んだ館山OWS
前回の中海OWSで、日本選手権出場権を獲得するためには巡航スピードそのものが足りないという現実を痛感した。
今年中に5kmで大きく能力を向上させることは簡単ではない。
そこで、自分の可能性を改めて考えた結果、巡航力がより求められる10kmに挑戦の軸を移し、10月のすさきOWS10kmを目標レースに設定した。
そのため、普段1時間30分だったスイミングの練習時間をコーチにお願いして2時間へ延長してもらう事ができた。
1回あたり約8kmを泳ぎ切るトレーニングである。
使用料をお支払いすることにしたのは、クラブに負担をかけないためだけではない。
自分自身に「この時間を無駄にしない」という責任を持たせるためでもある。
トレーニングによる疲労は大きく残る。
それでも、10kmを最後までペースを落とさず巡航できる能力を身につけるには、この積み重ねしかないと考えた。
館山OWSは目標レースではない。
そのため調整は一切行わず、レース直前まで2時間練習を継続した。
仕事の疲労も抱えた状態だったが、社会人スイマーにとっては、そのような条件の中でどうレースを組み立てるかも競技力の一つだと考え、スタートラインに立った。
調子が悪い日は、レースの目標を変える

館山OWS当日、レース前のアップを始めてすぐに調子の悪さを実感した。
体が重い…。
普段よりもボディポジションが沈み、思うように前へ進まない。
そして何より気持ちが悪い。実際に吐いてしまうほどコンディションは良くなかった。
この状態で「今日はダメだ」と漫然と泳いでも得られるものはない。
だからこそ、その日の課題を決めてスタートすることにした。
今回のレースの目標は、タイムでも順位ではない。
まずは、静岡お茶OWSで得た感覚をもとに、LT2付近の巡航ペースをどこまで維持できるかを確認すること。
スタート直後の位置取りや無理なペースアップは避け、自分の巡航を優先した。
次に、波のある海で視認がどこまでできるかを確認すること。
ブイだけでなく目標物を見ながら、自分が狙ったコースを泳げているかを意識した。
さらに、ウェーブスタートを利用し、前のカテゴリーの選手や同年代の選手を観察しながら、ドラフティングなどOWSならではのレース展開も試すことにした。
そして、最も大切な目標は無事に完泳することだった。
気温は35℃近く、水温も26℃と高い。体調も万全ではない。
この状況で無理をしてレースを壊すよりも、その日のコンディションで得られるものを一つでも持ち帰ることを優先した。
レースで再確認したOWSの本質
トップ選手でも起こる視認ミス

OWSでは、ブイを回った後に進行方向を見失うことは珍しくない。
経験豊富な選手でも起こるミスであり、館山OWSでも改めてその重要性を感じた。
方向を間違えないためには、ブイを回る前から次のブイや陸上の目標物を確認しておくことが重要だ。
ブイを回った瞬間に目標物が見えていれば、迷うことなく次のブイへ向かうことができる。
また、呼吸側によっても確認のしやすさは変わる。
私は左呼吸が得意であるが、右回りコースでは2ブイを目指して泳ぎながら、3ブイを確認するためには右呼吸を入れる必要がある。
右呼吸ができないわけではないが、得意な呼吸ではないため確認に労力がかかる。
一方、右呼吸が得意な選手なら、右回りコースでは呼吸のたびに自然と3ブイ方向を確認できる。
逆に、泉南OWSの様な左回りコースでは、左呼吸の私の方が確認しやすい。
もちろん、左右どちらでも無理なく呼吸できることが理想である。
さらに注意したいのは、前の選手についていけば安心というわけではないことだ。
ドラフティングには大きなメリットがあるが、前方の選手がコースを間違えれば、そのまま一緒に間違えてしまう危険もある。
特に競泳の泳力が高くてもOWS経験が浅い選手は、前方確認や空間認識に慣れておらず、方向を誤る場面をよく見かける。
館山OWSでも、ブイを回った後にコースを外れて泳ぐ選手がいた。
しかし私は事前に目標物を確認していたため、自分の進む方向を迷うことはなかった。
OWSでは、前の選手を信じるのではなく、自分でコースを確認することが重要である。
プールの泳力だけでは勝てない
館山OWSには、高校生や大学生の競泳選手が多く出場していた。
大会当日の私はアップの段階から体調が悪く、思うように身体が動かなかった。
それでも結果を見ると、多くの学生選手より前でゴールしていた。
もちろん、プールで泳げば彼らの方が速い。
大学まで競泳を続けている選手であれば、純粋な泳力では私より高いはずだ。
しかし、OWSは泳力だけで順位は決まらない。
波や流れによってフォームは乱れ、前方確認では一時的にボディポジションが崩れる。
さらに、コース取りやブイ周りなど、プールにはない技術が求められる。
館山OWSでは、特に沖側の2〜3ブイ区間で波や流れの影響が大きく、多くの選手が苦戦していた。
経験の浅い選手ほど、泳力に自信があるため前半から積極的にペースを上げる。
しかし、環境要因によって少しずつ体力とメンタルを消耗し、後半になるにつれて巡航ペースを維持できなくなる場面が見られる。
一方で、OWS経験のある選手は、環境に合わせて泳ぎ方を修正しながら、自分の巡航ペースを守ることができる。
今回のレースでは、私自身も決して良いコンディションではなかった。
それでも給水を3回取りながら大きくペースを崩すことなく泳ぎ切ることができた。
調子が悪い中でも巡航を維持できたことは、一つの収穫だった。
もちろん、日本選手権やトライアルの上位選手になれば、環境への対応は当たり前の技術となる。
その上で、巡航スピードやレース展開、ラストスパートの力が勝敗を分ける。
しかし一般カテゴリーでは、泳力だけでなく、環境に対応しながら自分の巡航を守り続けられる選手が結果を残しやすい。
これもOWSという競技の大きな特徴であり、純粋な泳力では敵わない相手にも、経験を積むことで勝負できる可能性が生まれるところがOWSの魅力だと思っている。

レースは知識を経験に変える場所
今回の館山OWSは、順位やタイムを追うレースとはしなかった。
そのため、普段ブログで発信しているOWSの知識や考え方を、実際のレースで確認する機会とした。
調子が悪いと分かった時点で、「今日はこの強度で泳ぐ」「給水を行う」「コースは自分で確認する」と、その日の目標を決めてスタートする。
レースでは、自分で判断しているつもりでも、実際には周囲の選手や環境にレースを支配されていることが少なくない。
前の選手についていく。周りがペースを上げるから自分も上げる。波に流され、焦って判断する。
これでは、自分のレースではなく、周囲に振り回されている状態になる。
一方で、「今日はこの強度で巡航する」「この選手についていく」「ここで給水する」「コースは自分で確認する」と、自分で判断しながらレースを組み立てれば、自分でレースをコントロールできる。
館山OWSでは順位を追う必要がなかったこともあり、周囲の選手や海の状況を落ち着いて観察することができた。
落ち着いて泳ぐと、普段見えなかったことが見えてくる。
しかし、本当に必要なのは、順位を狙うレースでも同じように冷静な判断を続けることだ。
焦る場面ほど、冷静に判断し、自分でレースをコントロールできるかどうかが結果を左右する。
レースは順位やタイムを競う場であると同時に、自分で判断し、自分で組み立てる場でもある。
実力不足を認めたからこそ、自分にできることへ目を向ける

館山OWSを終えて改めて感じたのは、自分にはまだ実力が足りないということだった。
日本選手権を目指す以上、結果は順位で決まる。
しかし、その順位は自分だけで決まるものではない。
どの選手がエントリーするのか。当日のコンディションはどうか。実力以上の力を発揮する選手もいれば、途中で棄権する選手もいる。
順位は自分だけでは決まらない。
だから、順位だけを追い続けるとメンタルは他者に左右されてしまう。
そう考えたとき、改めて意識したのは、自分でコントロールできることに集中することだった。
昨日より少し速い巡航ペースで泳ぐ。ボディポジションを高く保つ。前方確認を丁寧に行う。
自分で課題を決め、一つずつ取り組んでいく。
その積み重ねが自信となり、結果としてモチベーションにつながる。
他人と比べて「遅い」「実力不足だ」と考えていても、自分は成長しない。
少しずつでも、自分がコントロールできることを積み重ねる。
その先にしか、自分より高いレベルで泳ぐ選手との差を縮める道はない。
ありきたりかもしれない。
しかし、上の世界へ行く方法は、今日できることを積み重ねることしかないと私は考えている。
まとめ|結果だけでは測れないレースの価値
館山OWSは、調整を行わず、疲労が残った状態で臨んだレースだった。
正直なところ、「何をしに館山まで来たのだろう」と考えた瞬間もあった。
しかし、振り返ってみると、このレースにも多くの学びがあった。
調子が悪い中でどこまで巡航を維持できるのか。
途中棄権が頭をよぎる状況で、どうすれば完泳できるのか。
順位を追わないからこそ、自分でレースをコントロールし、OWSの知識を実際の経験へと変えることができた。
レースの価値は、順位やタイムだけで決まるものではない。どれだけ次につながる経験を持ち帰れるかで、その価値は大きく変わる。
そして、もう一つ改めて感じたことがある。
50歳になって始めた日本選手権への挑戦を、家族が応援してくれていることだ。
館山まで一緒に来てくれる家族。
レース後、愛知まで運転してくれる妻。
OWS大会や海へ行くことを楽しみにしてくれる子どもたち。
そして、全国各地の大会で再会できる海友の皆さん。
一人で挑戦しているつもりでも、多くの人に支えられて今の自分がある。
だからこそ、結果だけに一喜一憂するのではなく、一つひとつの経験を大切に積み重ねながら、この挑戦を続けていきたい。
