OWSに挑戦する社会人スイマーの多くは、仕事や家庭など限られた時間の中で練習を続けています。
週に3〜4回まとまった時間を確保できる人もいれば、毎日30分だけ泳げる人、週末しか長く泳げない人など、練習環境は人それぞれです。
限られた時間の中では、すべての能力を同時に大きく伸ばすことはできません。
だからこそ、「今の自分に必要な能力は何か」を考え、その能力に時間を配分することが重要になります。
この記事では、私自身が10kmレースに向けて試行錯誤している経験も交えながら、社会人スイマーのための練習設計の考え方を紹介します。
社会人スイマーの練習設計で一番大切なこと
社会人スイマーは、仕事や家庭など限られた時間の中で練習を続けています。
そのため、競技力を高めるために必要な能力をすべて同じように鍛えることは現実的ではありません。
練習設計で大切なのは、「どんなメニューを行うか」を先に決めることではなく、今の自分に不足している能力は何かを考えることです。
例えば、5kmの後半でペースが落ちるのであれば巡航力を優先し、スタート直後のスピード不足が課題であれば高強度の練習を増やす。
10kmで最後まで泳ぎ切ることが課題なら、長時間泳ぎ続ける耐久力を養う練習が必要になります。
限られた時間の中では、何かを増やせば、何かを減らさなければなりません。
巡航力を高める時間を増やせば高強度の時間は減り、高強度を増やせば巡航を積み重ねる時間は少なくなります。
そのため、社会人スイマーの練習設計とは、今の自分に必要な能力を見極め、その能力へ限られた練習時間を配分することです。
目的が明確になれば、選ぶべき強度やメニューも自然と決まってきます。
まず優先したいのは巡航力
OWSは巡航する時間が最も長い
OWSでは、スタート直後やブイ周りなど、一時的に高い強度が求められる場面があります。
しかし、一般カテゴリーに出場する多くの社会人スイマーにとって、レースを左右するのはその数十秒ではありません。
最後まで同じペースで泳ぎ続けられるか。
これが順位に大きく影響します。
私自身も昨年までは、レース前半は予定どおりのペースで泳げても、後半になると徐々に巡航ペースが落ちていました。
レース後半で順位を落とす原因は、一時的なスピード不足ではなく、巡航力が最後まで維持できなかったことです。
社会人スイマーは仕事や家庭との両立があり、十分な練習時間を確保することは簡単ではありません。
また、競泳を続けながらOWSに挑戦している方も多く、短い距離や高強度中心の練習になることも少なくありません。
そのため、練習設計では、スタートやゴールだけを意識した高強度練習よりも、レースで最も長く使う巡航力へ時間を配分することが重要になります。
レースで最も長く使う能力に、最も多くの練習時間を配分する。
これが、私が社会人スイマーの練習設計で最も大切にしている考え方です。
巡航力は長く泳ぎ続けることで育つ
巡航力を高めるためには、LT1前後の強度で長く泳ぎ続けられる身体を作ることが土台になります。
その理由は、OWSではレース時間の大部分を一定のペースで泳ぎ続けるからです。
LT2やVO2maxのような高い強度は重要ですが、長い時間継続することはできません。
一方、LT1前後であればフォームやリズムを維持しながら長時間泳ぐことができ、巡航力を育てるための練習時間を十分に確保できます。
大切なのは、ただ長い距離を泳ぐことではありません。
レースで使うフォームを維持しながら、同じ強度で少しずつ巡航ペースを引き上げていくことです。
例えば、以前は100mを1分35秒で泳ぐとLT1だったものが、継続したトレーニングによって1分32秒、1分30秒と、同じ心拍数・同じ余裕度でも速く泳げるようになれば、それは巡航力が向上している証拠です。
目指すのは、LT1でゆっくり泳げることではありません。
LT1という土台そのものを少しずつ引き上げ、巡航速度を高めていくことです。
この積み重ねが、5kmではレース後半の失速を防ぎ、10kmでは最後まで巡航ペースを維持できる力につながります。
練習時間によって設計は変わる
時間は有限であり、必ずトレードオフがある
社会人スイマーは、仕事や家庭など限られた時間の中で競技を続けています。
そのため、練習時間を自由に増やすことは簡単ではありません。
巡航力も高めたい。LT2やVO2maxも鍛えたい。技術練習もしたい。長い距離も泳ぎたい。
しかし、限られた時間の中ですべてを同じ割合で練習することは現実的ではありません。
例えば、巡航力を高めるために長い時間を泳げば、高強度に使える時間は少なくなります。
反対に、高強度の練習を増やせば、巡航力を積み重ねる時間は減ります。
これは社会人スイマーにとって避けられないトレードオフです。
しかし、トレードオフとは「何かを諦めること」ではありません。
今の自分に必要な能力は何かを考え、その目的に合わせて練習時間のバランスを設計することが大切です。
例えば、10kmに向けて巡航力を高めたい時期であれば、巡航の割合を増やし、高強度の割合を少し減らす。
5kmでスタートやレース中のペース変化への対応が課題であれば、高強度の割合を増やす。
このように、目的によって練習の配分を変えることが社会人スイマーの練習設計になります。

練習回数は多く取れるが、1回の時間が短い場合
例えば、週5〜6回、1回30〜45分程度泳げる環境です。
このような練習スタイルの最大の強みは、水に触れる機会が多いことです。
フォームや水感を維持しやすく、毎回の練習で泳ぎの感覚を確認できます。
また、疲労が少ない状態で泳げるため、巡航力やLT2など、その日の目的に応じた練習にも取り組みやすくなります。
一方で、30〜45分では5kmや10kmに必要な長時間泳ぎ続ける耐久力を養うことは難しくなります。
そのため、限られた時間では、水の中でしか鍛えられない能力を優先するという考え方が重要です。
私なら、プールに着いてからアップを始めるのではなく、プールへ向かう時間もウォームアップとして活用します。
駅から少し速歩きや軽いジョギングをしたりして体温を上げておく、運転中の信号待ちで上半身のストレッチを行い柔軟性や可動域を高めておけば、入水後は短時間のアップでメイン練習に入ることができます。
- 巡航力LT1を高めたい日(週4回)
目的:同じ強度でも巡航速度を引き上げる。フォームを維持しながら長く泳ぎ続ける能力を高める。
メインセット例
・150m✕10・300m✕5・500m✕3・1500m連続泳のいずれか
心拍数:最大心拍数の75〜83%
きつさの目安:少し余裕があり、1時間以上続けられる強度 - LT2を高めたい日(※週1回)
目的:巡航ペースを引き上げる。レース後半でもペースを維持する能力を高める。
メインセット例
・100m×10〜15または、300m×4〜6
心拍数:最大心拍数の84〜90%
きつさの目安:かなりきついが、最後までフォームを維持できる強度 - VO2maxを刺激したい日(※週1回)
目的:最大酸素摂取能力を刺激し、高い強度への対応力を高める。
メインセット例
・100m×3 ✕ 3セット(セット内ディセンディング)
・ 50m×3 ✕ 4セット(1本スムース・2本ハード)
心拍数:最大心拍数の90〜95%以上
きつさの目安:非常にきつく、会話はできない。数分しか維持できない強度
※LT2または、VO2maxのいずれかを実施する。
30〜45分しか泳げないからこそ、目的を明確にし、水の中でしか鍛えられない能力へ時間を配分することが重要です。
オフシーズン
巡航力を積み上げる
・LT1:4回
・LT2またはVO2max:1回
巡航速度を引き上げる
土台を作る時期
レースシーズン
レース対応力を高める
・LT1:3回
・LT2:1回
・VO2max:1回
レースペースを維持する
競技力を仕上げる時期
この配分は一例です。
目標とするレースや現在の課題に応じて、巡航LT1・LT2・VO2maxの割合を調整しましょう。
練習回数と時間のバランスが取れている場合
例えば、週3〜4回、1回60〜90分程度泳げる環境です。
このような練習スタイルは、巡航力を高める練習を十分に行いながら、LT2やVO2maxなどの高強度トレーニングも取り入れやすく、練習設計の自由度が高いことが特徴です。
一方で、時間に余裕があるからといって、毎回すべての能力を鍛えようとすると、それぞれの練習時間が短くなり、目的が曖昧になってしまいます。
そのため、巡航力を練習の中心に置きながら、LT2やVO2maxなど必要な刺激を組み合わせるという考え方が効果的です。
私であれば、アップを兼ねて泳ぎの確認を行ったあと、約1時間はLT1前後で巡航力を高める練習を実施します。その後、LT2やVO2maxで高い刺激を加え、レースで必要となる巡航速度や加速への対応力を維持・向上させます。
巡航力を高めたい日
目的:巡航速度を引き上げ、長時間フォームを維持する能力を高める。
練習メニュー例
①アップを兼ねた泳ぎの確認 (30分間・1,000〜1,500m)
・100m✕15・150m✕10・1500m連続泳のいずれか
② メイン練習 LT1(60分間 ・約3,000m)
・500m×6・300m×10・3000m連続泳のいずれか
心拍数:最大心拍数の75〜83%
きつさの目安:少し余裕があり、1時間以上続けられる強度
LT2を高めたい日
目的:巡航速度をさらに引き上げる。レース中のペースアップやブイ後の加速へ対応する能力を高める。
練習メニュー例
①アップを兼ねた泳ぎの確認 LT1(60分間・3,000〜3,500m)
・100m✕15・150m✕10または、
・300m×5・500m×3
②メイン練習 LT2(30分間・1,000〜1,500m)
・150m×10
・300m×5
心拍数:最大心拍数の84〜89%
きつさの目安:LT2:かなりきついが、最後までフォームを維持できる強度
VO2maxを高めたい日
目的:最大酸素摂取能力を刺激し、高い強度への対応力を高める。
レース中のペースアップやブイ後の加速へ対応する能力を高める。
練習メニュー例(メインセット)
・100m×3 ✕ 3セット(セット内ディセンディング)
・ 50m×3 ✕ 4セット(1本スムース・2本ハード)
心拍数:Vo2max:最大心拍数の90〜95%以上
きつさの目安:Vo2max:非常にきつく、会話はできない。数分しか維持できない強度
練習回数は少ないが、長時間泳げる場合
例えば、週1〜2回、1回2〜3時間程度泳げる環境です。
このような練習スタイルは、10kmに向けた長時間の巡航練習を行いやすく、レース時間に近い負荷を経験できることが大きな強みです。
一方で、「せっかく3時間あるのだから、LT1・LT2・VO2max・距離練習をすべてやろう」と考えてしまう方も少なくありません。
しかし、長時間練習でも大切なのは、その日に何を鍛えるのかを明確にすることです。
例えば、巡航力を高める日であれば、泳ぎの確認を行ったあと、LT1を中心に8〜10km泳ぎます。
一方、高強度を行う日は、LT1をベースにしながらLT2やVO2maxに時間を使い、練習時間を少し短くしても構いません。
巡航力を高めたい日
目的:巡航速度を引き上げ、長時間フォームを維持する能力を高める。
練習メニュー例
①アップを兼ねた泳ぎの確認 (30分間・1,000〜1,500m)
・100m✕15・150m✕10・1500m連続泳
② メイン練習(LT1を中心とした2時間30分・6,000〜7,500m)
・300m×5 パドルスイム
・500m×3 スイム
・15000m スイム
・500m×3 フィンスイム
・300m×5 スイム
心拍数:最大心拍数の75〜83%
きつさの目安:少し余裕があり、1時間以上続けられる強度
LT2、VO2maxを高めたい日
目的:巡航速度をさらに引き上げる。レース中のペースアップやブイ後の加速へ対応する能力を高める。
練習メニュー例
①アップを兼ねた泳ぎの確認 (30分間・1,000〜1,500m)
・100m✕15・150m✕10
②メイン練習 LT1(30分間・1,000〜1,500m)
・500m×3・300m×5・1500m連続泳のいずれか
③メイン練習 LT2(40分間・2,000m)
・100m→200m→300m→400m→400m→300m→200m→100m
距離が長くなってもフォームを崩さず、後半の距離が短くなるにつれて少しずつ速度を上げられるくらいが理想です。
④メイン練習 VO2max(10分間・約500m)
・50m×3×3〜4セット(1本スムース・2本ハード)
⑤ダウン(10分間・約500m)
・400〜500m
ゆっくりとしたスイム、フォームや呼吸を整えながら泳ぐ。
5kmと10kmでは練習設計が変わる
5kmと10kmでは、単純にレース距離が2倍になるだけではありません。
一般カテゴリーの選手にとって、10kmを最初から最後まで同じペースで泳ぎ続けることは簡単ではなく、後半になると筋疲労によるフォームや巡航速度の低下が起こります。
そのため10kmを目指すのであれば、プールでも長い距離を泳ぐ練習は欠かせません。
長時間泳ぐ中で、
- この距離までなら余裕がある
- ここから腕や背中が重くなってくる
- 残り3kmならこのペースを維持できる
といったように、距離と自分の残っている余力を結びつけて把握できるようになることも大切です。
また、10kmでは補給も練習の一部になります。エネルギーが枯渇してから補給するのではなく、レース中に定期的に摂取できるよう、長時間練習の中でタイミングや量を確認しておく必要があります。
私自身は、練習の中で一度はエネルギーが枯渇したときに身体がどうなるのかを経験しておくことにも意味があると考えています。ただし、これは毎回行うものではありません。
一方、一般カテゴリー5kmであれば、これまで説明してきた巡航力が練習の中心になります。
ただし、一定ペースで泳ぐ能力だけではなく、スタート、集団のペース変化、ブイ後の加速などに対応するため、LT2やVO2maxを取り入れ、巡航速度を変化させる能力も身につけておきたいところです。
道具も目的に合わせて使う
パドルやプルブイ、フィンなどの道具は、目的を明確にして使えば効果的なトレーニングになります。
私自身、以前はプルブイとパドルを使って長い距離を泳ぐことがよくありました。肩や背中には負荷がかかり、距離も泳げるため、「しっかり練習した」という感覚も得られます。
しかし、それが実際の泳力向上にどこまでつながっていたのかと考えると、今は少し違った見方をしています。
特にプルブイは下半身が浮きやすく、キックを使わなくても泳ぎやすくなります。距離を楽にこなすためではなく、キックの影響を減らして上半身の動きに集中するなど、使う目的を明確にすることが大切です。
| アイテム | 主な目的 |
|---|---|
| プルブイ | キックの影響を減らし、キャッチやストローク、上半身の動きを確認する |
| パドル | 水を捉える感覚を確認し、ストロークへの負荷を高める |
| フィン | 姿勢やキックを確認し、通常より高い速度・テンポを経験する |
| プルブイ+パドル | 上半身への負荷を高め、キャッチからプルの動きを意識する |
道具を使うこと自体を目的にするのではなく、「今日は何を鍛えるのか」を決め、そのために必要な道具を選びます。
足りない能力はプール以外でも補える
仕事や家庭の都合がある社会人にとって、プールで泳げる時間には限りがあります。
だからこそ、プールでは水の中でしか身につけにくい能力を優先するという考え方も大切です。
泳ぎのフォーム、水を捉える感覚、巡航ペースの確認などは、実際に泳がなければ十分に練習することができません。
一方で、筋力や可動域、体幹の安定性などは、プール以外でも補うことができます。
例えば、チューブを使ったトレーニングや筋力トレーニング、肩甲帯や胸郭の可動域を広げる運動などは、自宅でも取り組めます。
また、長時間の有酸素運動に慣れるという目的であれば、ランニングや自転車などを取り入れる方法もあります。
もちろん、陸上トレーニングだけで泳力が高まるわけではありません。
大切なのは、「泳ぐ時間が足りないから諦める」のではなく、何がプールでしかできず、何ならプール以外でも補えるのかを考えることです。
限られた時間の中で、それぞれの練習場所に役割を持たせることも、練習設計の一つだと考えています。

まとめ
社会人スイマーがOWSのための練習を続けるうえで、練習時間や回数には限りがあります。
だからこそ大切なのは、たくさんのメニューをこなすことではなく、限られた時間の中で何を優先するのかを決めることです。
OWSではレースの大部分を巡航して泳ぎます。
まずはLT1を土台として巡航力を積み重ね、そのうえでLT2やVO2maxを目的に応じて取り入れていきます。
練習できる時間や頻度によって、その組み立て方も変わります。
30〜45分しか泳げない人と、週末に2〜3時間泳げる人では、同じメニューを行う必要はありません。
また、5kmと10kmでも必要な能力は変わり、パドルやフィン、プルブイといった道具も、目的によって使い方が変わります。
大切なのは、「何km泳いだか」ではなく、「何を鍛えるために、その練習をしたのか」です。
自分が使える時間と現在の泳力、目指すレースを考えながら、自分に合った練習を組み立ててみてください。
