OWSでは、どの強度でどれだけ長く泳ぎ続けられるかが、パフォーマンスを大きく左右します。
前回の記事では、LT1・LT2という強度の考え方をもとに、巡航力を作るための土台について解説しました。
しかし、強度を理解するだけでは、実際のレースではうまく使いこなすことができません。
👉 その強度を「いつ・どの場面で使うのか」
👉 そして、その泳ぎをどうトレーニングで再現するのか
ここが結果を分けるポイントになります。
レースでは、ただ一定のペースで泳ぐだけではなく、
・序盤の位置取り
・中盤の巡航
・勝負所での強度の上げ方
といった場面ごとに、強度を使い分ける必要があります。
また、その強度を支えるためのトレーニングも、目的に応じて設計することが重要です。
この記事では、
レースでの強度戦略と、その泳ぎを作るための実践的なトレーニング方法について解説していきます。
OWSレースでの強度戦略|LT2手前で泳ぎ続ける
レースの基本はLT2手前の巡航
OWSのレースでは、常に全力で泳ぎ続けることが正解ではありません。
重要なのは、
LT2を超えない範囲で、どれだけ長く泳ぎ続けられるかです。
👉 LT2手前の強度が、レースで使う“上限”になります。
この強度であれば、
・ペースを維持できる
・フォームを保てる
・後半まで失速しにくい
といった状態を保つことができます。
トレーニングではLT1を中心に土台を作りますが、
レースではその一段上、LT2手前で巡航することが基本になります。
勝負所で強度を上げる|LT2を超える使い方
レースでは、常に同じ強度で泳ぎ続けるわけではありません。
・スタート直後の位置取り
・ブイ周り
・集団内での駆け引き
こうした場面では、一時的に強度を上げる必要があります。
このとき、LT2を一時的に超えることもあります。
ただし重要なのは、
**“ずっと耐えること”ではなく、“必要な場面だけ使うこと”**です。
無計画に強度を上げると、後半の失速につながります。
👉 勝負所でだけ使い、すぐに戻す。これが基本です。
強度を上げた後に戻す|レースを崩さない回復技術
レースで差がつくのは、
強度を上げたあとに戻せるかどうかです。
多くの選手は、上げた強度のまま耐えようとして崩れます。
・呼吸が乱れる
・フォームが崩れる
・ペースが落ちる
この状態になると、レースは一気に苦しくなります。
重要なのは、
再びLT2手前に戻して巡航に戻れることです。
そのためには、
・呼吸を整える
・ストロークのリズムを戻す
・無理に力を使わない
といった“調整”が必要になります。
👉 レースは「どれだけ上げられるか」ではなく、「上げても戻せるか」で決まります。
LT1とLT2の関係|使える強度を引き上げる発想
トレーニングによって変わるのは、単純なスピードだけではありません。
重要なのは、
レースで使える強度そのものを引き上げることです。
LT1のトレーニングを積み重ねることで、
・同じ感覚でも少し速いペースで泳げる
・呼吸やフォームを維持したまま巡航できる
ようになります。
さらに、LT2のトレーニングを取り入れることで、
・高い強度でも崩れにくくなる
・強度を上げた後でも回復しやすくなる
といった変化が生まれます。
その結果、
👉 楽に維持できるペースも、限界に近いペースも、どちらも引き上がっていきます。
これが、巡航力が向上する本質です。
一般選手と上位選手の違い |求められる強度の使い方の違い
一般の選手に求められるのは、
LT1〜LT2手前の強度で安定して泳ぎ続ける能力です。
一方で、上位レベルの選手(日本選手権トライアル出場レベル)は、
・LT2手前で巡航する
・勝負所で一時的に強度を上げる(LT2を超える)
・再びLT2手前に戻して回復する
👉 この繰り返しができる能力が求められます。
さらに最終盤では、
👉 VO2maxに近い強度(最大に近いきつさ)で泳ぎ切る力
が必要になります。
これは、呼吸も苦しく、フォームの維持も難しい、
ほぼ限界に近い状態で出し切る強度です。
この局面で勝負できなければ、結果にはつながりません。
自分のLT1・LT2の見つけ方とよくある間違い
体感で強度をコントロールする方法(呼吸・余裕度・フォーム)
LT1やLT2の強度は理解していても、実際の練習ではその強度を維持し続けることは簡単ではありません。
そのため重要になるのが、体感を使って強度をコントロールすることです。
トレーニング中は、常に一定の強度で泳ぎ続けるのではなく、小さなズレを感じ取りながら修正していきます。
強度が上がりすぎているときは、呼吸が徐々に苦しくなったり、余裕がなくなってきたり、フォームに力みが出てきます。
この“わずかな変化”を見逃さないことが重要です。
ズレを感じたら、ペースをわずかに落とす、呼吸のリズムを整える、ストロークを丁寧にするなどして、強度をLT2手前に戻すように調整します。
理想は、完全に崩れてから修正するのではなく、
崩れる前に修正することです。
一度崩れてしまうと、強度を戻すのに時間がかかり、トレーニングの質も落ちてしまいます。
そのため、「少しきつくなってきた」段階で修正することが重要になります。
そのため重要になるのが、体感を使って強度をコントロールすることです。
心拍数とペースの目安|実践的な管理方法
強度管理では、心拍数とペースを使いますが、
重要なのは数値そのものではなく、その使い方です。
心拍数は体調や環境で変わり、
ペースも同じタイムでも強度は一定ではありません。
そのため、
心拍数で強度を把握し、そのときのペースと体感を結びつけていきます。
さらに、ペースを少しずつ上げながら、それでも維持できるかを確認することで、
自分の“維持できる強度”が明確になります。
スイムウォッチが使えない場合でも、頸動脈での測定や体感で十分対応できます。
数値は補助。最終的には体感と一致させることが重要です。

CSSは参考になる?|強度指標との関係
CSS(クリティカルスイムスピード)は、長く泳ぎ続けられるスピードの目安となる指標です。
一般的には、400mと200mのタイムから算出し、100mあたりのペースとして表されます。
CSSは持続可能なスピードの基準として有効ですが、あくまで“ペースの目安”であり、強度そのものを示すものではありません。
同じCSSペースであっても、体調や疲労、水温などの影響によって実際の負荷は変わります。
そのため、CSSはトレーニングの出発点として活用しつつ、そのときの呼吸や余裕度、フォームといった体感と結びつけて使うことが重要です。
例えば、CSS付近のペースで泳いだときに「安定して維持できるのか」「徐々にきつくなるのか」を確認することで、自分にとってのLT1やLT2手前との関係が見えてきます。
CSSの算出は、外部の計算ツールを使うと簡単に目安を把握できます。
https://www.myprocoach.net/calculators/critical-swim-speed/
👉 CSSは“答え”ではなく“目安”であり、体感と一致させてはじめて意味を持つ指標です。
スイムウォッチの活用と制限がある環境での対応
スイムウォッチは、心拍数やペースを把握できる有効なツールです。
プールでのトレーニングでは、LT1やLT2手前の基準を数値として確認することができます。
私自身もスイミングで使用していますが、LT1の強度であればターン後に泳ぎながら心拍数を確認でき、強度のズレをその場で把握することができます。
ただし、公営プールでは使用が認められていない場合もあり、レース中は時計を確認できない場面がほとんどです。
そのため、
👉 スイムウォッチで基準を作り、最終的には体感で強度を判断できるようにすることが重要です。
時計が使えない場合でも、頸動脈での心拍測定(10秒×6)や、呼吸・余裕度・フォームといった体感を組み合わせることで、強度は把握できます。
よくある失敗|強度設定を間違えるパターン
強度設定のミスは、気づかないうちに起こります。
特に多いのが、思っているよりも強度が高くなっているケースです。
例えば、
・前半は余裕がある
・「このままいける」と感じる
・予定より少し高い強度で進んでしまう
こうした状態は珍しくありません。
しかし、距離が長くなるほど、
👉 前半のわずかな強度のズレが、後半に大きく影響します。
私自身も10kmのレースで、前半は余裕があると感じながら進めたものの、
中盤以降に疲労が顕著に現れ、最後は大きくペースを落とす展開になりました。
👉 「いける」という感覚は、必ずしも正しいとは限りません。
重要なのは、
👉 「維持できるかどうか」で強度を判断することです。
具体的なトレーニング例と考え方のまとめ
以下に紹介するトレーニングは、あくまで私自身の実践例です。
日本選手権トライアル出場を目標に、
5kmを100m1分20秒ペースで泳ぐことを基準に強度設計しています。
プールでこのペースを維持できたとしても、OWSでは波や潮流、進路ロスの影響を受けるため、
レースでは1時間10分以内で泳ぐことを現実的な目標としています。
そのため、日々のトレーニングでは、
このペースを「長く・安定して維持できるか」を軸に組み立てています。
LT1トレーニングの具体例と狙い
私の場合、LT1トレーニングでは心拍数150を超えないようにコントロールしています。
特に、140台前半で安定して泳ぎ続けられる強度を目安にしています。
👉 この範囲で「長く・安定して維持できるか」を重視しています。
この強度は、競泳の練習に慣れている選手にとっては物足りなく感じるかもしれません。
しかし、それは目的の違いによるものです。
👉 LT1トレーニングは、巡航力を作るために時間をかけて身体を変えていくトレーニングです。
短時間でのスピード向上や神経系への刺激を狙うものではなく、
👉 「長く泳ぎ続けられる能力」を積み上げていくことが目的です。
■目的
距離に応じたLT1ペースを正確に維持し、体感でペースを刻めるようにする
■メニュー
・UP 1500m(100m 1:30ペース)
・SWIM 300m ×8 4:30(100m 1:26ペース)
・SWIM 500m ×3 7:30(100m 1:28ペース)
Total:5400m
■意識するポイント
・前半から飛ばさない
・後半もペースを落とさない
・呼吸・ストロークを一定に保つ
👉 速すぎても遅すぎてもいけない。強度を維持する。
👉 体感でペースを刻めるようにすることが目的
■目的
ストローク長を維持しながら、効率の良い泳ぎで巡航力を高める
■メニュー
・SWIM 500m ×3 7:30(100m 1:28ペース)
・SWIM 300m ×6 4:30(100m 1:26ペース)
・パドルSWIM 300m ×6 4:25(100m 1:20ペース)
・SWIM 100m ×6 1:30(100m 1:25ペース)
Total:約5700m
■意識するポイント
・※SWOLFを意識してゆったり泳ぐ
・ストロークを急がない
・水をしっかり捉える
👉 後半でもストローク長を落とさないことが最重要
👉 疲れても効率を維持することが巡航力につながる
※SWOLF(スウォルフ)とは、タイムとストローク数を足した数値で泳ぎの効率を表す指標です。
例えば、25mを20秒・ストローク18回で泳いだ場合、
👉 20+18=38(SWOLF)
この数値が低いほど、少ないストロークで速く進めている=効率が良い状態を示します。
ただし、ゆっくり泳げば数値は下がるため、
👉 スピードを保ちながらSWOLFを下げることが重要です。
LT2トレーニングの具体例と狙い
私の場合、LT2トレーニングでは、「きついが維持できる」強度を狙っています。
呼吸は楽ではなく、フォーム維持にも意識が必要になりますが、崩れる直前でコントロールすることを重視しています。
この強度は、LT1トレーニングに比べて負荷が高く、疲労も大きくなります。
しかし、それは目的の違いによるものです。
LT2トレーニングは、巡航できる上限を引き上げるためのトレーニングです。
短時間で追い込むことが目的ではなく、「高い強度でも維持できる能力」を積み上げていくことを目的にしています。
■目的
レース後半でもペースを維持できるように、LT2手前〜LT2付近の強度に身体を適応させる
■メニュー
・1500m ×1 22:30(100m 1:30ペース)
・500m ×3 7:30(100m 1:28ペース)
・300m ×5 4:30(100m 1:25ペース)
・100m ×15 1:30(100m 1:23ペース)
Total:6000m
■意識するポイント
・前半で上げすぎない
・フォームを崩さない
・強度を上げても“戻せる”感覚を持つ
👉「いける」ではなく、「維持できる」で強度を判断する
👉前半のわずかなオーバーペースが、後半の失速につながる
実際にこのメニューを行った際、500mの段階では余裕を感じ、予定より速い1:25ペースで泳いでしまいました。
しかし、その後の100mでは1:23ペースを維持できませんでした。
前半のわずかな強度設定のズレが、後半に大きく影響したのです。
「いける強度」と「維持できる強度」は違います。
特にOWSの長距離では、前半のわずかなオーバーペースが後半の失速につながります。
■目的
LT2〜VO2付近の強度に身体を適応させ、上げた強度をコントロールできる能力を高める
■メインメニュー
・300m → 200m → 100m(ディセンディング)
300m:4:10
200m:2:50
100m:2:00
※ 以上を3セット
1・2セット目:プル
3セット目:スイム
・100m ×4 1:40(スムース)
■設定
・300m、200mは100m 1:20ペースを基準
・100mはさらにペースを上げる
■意識するポイント
・前半で上げすぎない
・フォームを崩さない
・強度を上げてもコントロールできる範囲に収める
👉 崩れる直前でコントロールすることを意識する
このメニューは、単に強度を上げることが目的ではなく、上げた強度をコントロールできるかを確認するトレーニングです。
実際に行った際、プルでは余裕を持って回せましたが、スイムでは300m、200mの段階で負荷が上がり、100mはそのままでは維持できない状態になりました。
そのため、コーチの判断で30秒のレストを入れ、100mは1:15で泳ぎました。
崩れたまま続けるのではなく、一度立て直して質を維持することが重要だと感じました。
また、同じ設定でもプルとスイムでは負荷の感じ方が大きく異なり、実際の泳ぎではより繊細な強度コントロールが求められることも実感しました。
最後に入れている100m×4のスムーススイムは、上げた強度から呼吸や動きを整え、再び動ける状態に戻すためのものです。
強度を上げるだけでなく、戻す力を身につけることも重要になります。
強度設計のまとめ|LT1で積み上げ、LT2で引き上げる
LT1トレーニングは、長く安定して泳ぎ続けるための土台を作ります。
一方、LT2トレーニングは、その上で巡航できる上限を引き上げるものです。
LT1で積み上げ、LT2で引き上げる。
この関係が、強度設計の基本になります。
しかし、強度を上げすぎると積み上げが崩れてしまいます。
LT1を軸に、LT2を適切に組み込むことが重要です。
まとめ|強度を理解することが、結果につながる
これまでの内容から分かるように、OWSで重要なのは単に泳ぐ距離やきつさではありません。
どの強度で、どれだけ長く泳ぎ続けられるか。
これが巡航力を決めます。
しかし、実際のトレーニングでは、
・追い込むことを優先してしまう
・強度が高くなりすぎてしまう
といったズレが起きやすくなります。
その結果、積み上げができず、思うように伸びない状態になります。
「いける強度」と「維持できる強度」は違います。
この感覚を持つことが、トレーニングの質を大きく変えます。
まずは、
今行っている練習が
どの強度で行われているのか
そして、
その強度を維持できているのか
を意識してみてください。
それだけで、トレーニングの意味は大きく変わります。
